　俳句を趣味にしている常連の女性客がいる。　その彼女が句会をやりましょうと言う。
“すぐできますあなたもやってみませんか？”
“見た景色素直に言葉にするだけよ”
おっと“わたくしは俳句好きではありません”
「ほらぁ、やればできるじゃないですかぁ～。」
しまった！・・・つい乗ってしまった。

　こんなふうに、五・七・五でやりとりして連歌を楽しむことを俳諧というそうです。俳諧とは高尚な文学の類ではなく、俗っぽい言葉遊びの中に機知を含ませたもので、その本質は“滑稽であること”だそうです。ここから俗っぽさを離れ“風雅”を良しとする世界に発展したのが俳句。しかし、“侘び寂び、風雅”を追求した俳人松尾芭蕉も、晩年は俳諧の原点に戻り、日常生活の一片を切り取った「軽み」のある句を多く残したそうです。落ち着くところ『肩肘張らずに庶民が楽しむ洒落た言葉遊び』ということでしょうか。そんなわけで素人の私も俳諧に付き合うことになりました。

　では、まず肩慣らしから。 “山俳句　これがほんとの　ハイキング・・・”なんちゃって！
「それでいいんですよ。その調子！その調子！それでは始めます。まずは『お題』を決めましょう。来る途中に撮ってきた写真がありますから、それを見て句を詠むっていうのはどうかしら」
「結構ですよ。でも実際に見てきた人とはハンディがあるなぁ」
「小屋のスタッフなら写真を見ればその場の雰囲気がわかるから大丈夫でしょう？」そう言うと彼女はデジカメの画像を探し始めた。
「これがいいわ。これ、昨日池の平山山頂で撮った写真です。ずっとガスがかかって剱が見えなかったんですけど、頂上に着いたら晴れたんですよ。でも10分後にはまたガスの中。ほんの一瞬のことでした。ここで一句浮かんだんです。」

“カッコよく　撮れよとドヤ顔　剱岳”
「いいですね～。他を圧倒するカッコ良さ、岩稜の堂々たる雰囲気を見事に表現していますよ。では私も・・・はい、整いました！（そう言う漫才コンビがいますね）」
“裏剱　チラ見で歓迎　おもてなし”
「裏とおもてなしですか。さっきからダジャレばかりですね。では次いきます。仙人峠で撮った写真です。今度は渓さんからお願いします。」
「この写真、帽子を持った後ろ姿がいい雰囲気出しているなぁ。『花子とアン』のオープニングシーンみたいですね。はい、整いました！蓮子さん^(注１)の気持ちを詠います。」

“都会（まち）を出て　駆け落ちします　八峰と”
「ロマンチックね。確かに私、裏剱に恋しているかも。だから・・・」
“山に恋　パルピテーション^(注２)の　嵐吹く”
「てっ、嵐を掛けて上手いじゃん。それなら私も朝ドラネタで・・・」
“ヒロインは私　チンネが露払い”
「ありがとうございます。では募る思いを詠みます・・・」
“また来ます　チンネに誓う　恋心”
「ほんとにそう言っているように見えますね～。ガスった三の窓もいい雰囲気出してるし」
“山慕う　心を映す　三の窓”もう一つ“ドヤ顔も　美女の前では　紳士ぶり”
「わーっ、剱岳って嘉納伝助^(注３)みたい」
「そう、剱岳は『試練と憧れ』、嘉納伝助も男の憧れかな」

「そういえば池の平小屋でおもしろいマグカップを見つけたんです。『好山病』っていうシールが貼ってあったの。これを見て私も好山病だってすぐわかりました。月曜日に仕事に行くのが憂鬱で・・・山ではいい笑顔ができるんですけどねぇ・・・」
「それはもう慢性の好山病ですね。治す薬はありません。はい、整いました！」
“好山病　山は心の　治療室”
「確かにそのとおりです。夕べご主人に勧められていろんな薬を飲みましたよ。アルミ缶の苦いのとか、紙パックの『銀盤』とか・・・」
「薬は薬でもみんなアルコール類ですね。おっ、一句出来たぞ」

仙人温泉俳句会

渓信州 2014年8月24日掲載 E-50

渓信州　2014年8月24日掲載　E-50